べっこう色の記録

かつては日記でしたが、現在は数学のことを多く書いています

東北大学2020理学部数学系AOII第4問を解く

3)が不思議なくらいやっかいである.こんな解き方でいいのだろうか.
3乗根の記号がブログの仕様で出力できないので,x^{1/3}で表す.

[4] i虚数単位とし,\omega = \frac{-1 + \sqrt{3} i}{2}とする.
1) 次の連立方程式を満たす複素数の組 (y,z)をすべて求めよ.
\begin{eqnarray}
  \left\{
    \begin{array}{l}
      y^3 + z^3 = 4 \\
      yz = 1
    \end{array}
  \right.
\end{eqnarray}
ただし,正の実数xの3乗根である実数を {}^3 \sqrt{x} と記し,分母の有理化はしなくてよい.
2) a,b,cを相異なる3つの複素数とし,a,b,cが表す複素数平面上の3点を線分で結ぶ.
このとき,正三角形が得られる必要十分条件は,複素数a,b,c
a+ \omega b + \omega ^2 c=0 または a + \omega ^2 b + \omega c=0
を満たすことである.このことを示せ.
3) 1)で求めた組(y,z)のなかで,yzがともに実数であるものの1つを(q,r)とする.
pを3次方程式
x^3-3x+4=0
を満たすxのうち実数でないものとする.このとき,p,q,rが表す複素数平面上の3点を線分で結ぶと,正三角形が得られることを示せ.

解)
1)
yz=1からy^3 z^3 =1である.
y^3 +z^3 =4と連立すると(y^3)^2 -4y^3 +1=0が得られる.
y^32次方程式と見て解くとy^3 =2 \pm \sqrt{3}となる.
正と負の方程式をそれぞれ解くと,
y=(2 + \sqrt{3})^{1/3},(2 + \sqrt{3})^{1/3} \omega ,(2 + \sqrt{3})^{1/3} \omega ^2,
 (2- \sqrt{3})^{1/3},(2- \sqrt{3})^{1/3} \omega ,(2- \sqrt{3})^{1/3} \omega^2となる.
yz=1に代入することで,次の6組を得る.
(y,z) = ( (2 + \sqrt{3})^{1/3},(2- \sqrt{3})^{1/3}), ( (2 + \sqrt{3})^{1/3} \omega, (2- \sqrt{3})^{1/3} \omega^2),
   ( (2 + \sqrt{3})^{1/3} \omega^2, (2- \sqrt{3})^{1/3} \omega),( (2- \sqrt{3})^{1/3}, (2 + \sqrt{3})^{1/3}),
   ( (2- \sqrt{3})^{1/3} \omega, (2 + \sqrt{3})^{1/3}\omega^2), ( (2- \sqrt{3})^{1/3} \omega^2, (2 + \sqrt{3})^{1/3} \omega)

2)
複素数が表す点をA(a),B(b),C(c)とおく.
ABCまたは△ACBが正三角形であるとする.
複素平面の点を幾何ベクトルとみると,\vec{OC}=\vec{OA}+\vec{AC}であって,
\vec{AB}を始点を動かさずに\pm \frac{\pi}{3}回転したものが\vec{AC}であるから
c=a+(b-a)(\cos (\pm \frac{\pi}{3}) + i \sin (\pm \frac{\pi}{3}))
 =a+(b-a) \cdot \frac{1 \pm \sqrt{3}i}{2}
 =\frac{1 \mp \sqrt{3}i}{2} \cdot a +\frac{1 \pm \sqrt{3}i}{2} \cdot b
である.ここで\omega^2 = \frac{-1 - \sqrt{3} i}{2}であるから,この式は
c=- \omega a - \omega^2 b または c=- \omega^2 a - \omega b
となる.前の式には両辺に\omega^2,後の式には両辺に\omegaをかけると
a+ \omega b + \omega ^2 c=0 または a + \omega ^2 b + \omega c=0
が得られる.逆にこの2式が与えられれば,上の式変形を逆にたどれば正三角形であることが示される.

3)
q=(2 + \sqrt{3})^{1/3},r=(2- \sqrt{3})^{1/3}とする.
x^3-3x+4=0の解はx=-q-r, -q \omega - r \omega^2, -q \omega^2 - r \omegaである.
実際,1)の連立方程式を満たすので-q^3 -r^3=-4, qr=1であるから,
 (-q-r)^3 -3(-q-r)+4
=-q^3-3q^2 r -3 q r^2 -r^3 +3q +3r +4=0
 (-q \omega - r \omega^2)^3 -3(-q \omega - r \omega^2)+4
=-q^3-3q^2 r \omega -3qr^2 \omega^2 +3q \omega +3 r \omega^2+4=0…(★)
-q \omega^2 - r \omegaを代入した場合は(★)で両辺の複素共役をとると\omega^2=\overline{\omega}に注意すると従う.
3次方程式は高々3個の複素数解を持ち,相異なる3個の方程式を満たす解が見つかったのでこれらが解である.
pはこのうちの実数ではないものをとることでp=-q \omega - r \omega^2 または p=-q \omega - r \omega^2である.
p=-q \omega - r \omega^2ならばp+q \omega +r \omega^2=-q \omega - r \omega^2 + q \omega + r \omega^2=0である.
p=-q \omega^2 - r \omegaならばp+q \omega^2 +r \omega=-q \omega^2 - r \omega + q \omega^2 + r \omega=0である.
2)よりp,q,rを線分で結んだ三角形は正三角形であることが示された.

注意
1)について
実際には複号同順の\pmを使って書くと,解答用紙をたくさん使わずに済む.
問題文にある分母の有理化が不用,という話はおそらくyz=1に代入するわけだが,
z=\frac{1}{y}に代入することで分母に3乗根を含んだ値が出てくる.これを有理化しなくてもいいということだろう.
上の解答では積が1だから,3乗根の中身がa^2-b^2の形で1になることから値を導いたので,
有理化の話が出てこなくて戸惑った.

2)について
幾何ベクトルとみなして回転させるお馴染みの解である.

3)について
問題はここである.上の解答では急にこれらが解だ,と断定して代入して確かめた.
なぜ思いついたか,という話である.
ただ眺めているだけでは厳しい.この方程式は因数定理を用いて解くことができないからだ.
そこで私はカルダノの公式のように考えた.
高校数学の範囲を逸脱しているが考え方そのものはそれほど難しくないので書く.
x=u+vと(突然)おく.3次方程式の解がこのように書けると仮定するのだ.方程式の左辺に代入すると
 (u+v)^3 -3(u+v)+4
=u^3 +3u^2 v +3uv^2 +v^3 -3u -3v +4
=(u^3 + v^3 +4)+3(u+v)(uv-1)
となる.これは
\begin{eqnarray}
  \left\{
    \begin{array}{l}
      u^3 + v^3 = -4 \\
      uv = 1
    \end{array}
  \right.
\end{eqnarray}
であるu,vが存在すればよい,ということになる.
問題文で与えられたy,z連立方程式によく似ている.和の部分の符号が逆である.
この連立方程式を次のように書き換える.
\begin{eqnarray}
  \left\{
    \begin{array}{l}
      (-u)^3 + (-v)^3 = 4 \\
      (-u) \cdot (-v) = 1
    \end{array}
  \right.
\end{eqnarray}
つまり,u,vは,1)で求めたy,zの符号を取り替えたもので表せることがわかった.
ちなみに1)は6個の組が求められたがy,zは可換なので,u+vは3個決まる.
あとは解答のとおりである.