べっこう色の記録

かつては日記でしたが、現在は数学のことを多く書いています

ルベーグ積分の収束定理(ベッポ・レヴィの定理)

単調増加な列に対する収束定理を取り扱う.
収束定理とは,\lim積分の順序交換を保証する定理である.

定理(ベッポ・レヴィの定理)
非負可測関数列\{ f_j \}_{j=1}^\inftyに対して,
\displaystyle \int \sum_{j=1}^\infty f_j dm =\sum_{j=1}^\infty \int f_j dm
が成り立つ.この等式の右辺または左辺が無限大であれば,両辺共に無限大となる.

積分範囲が示されていないが,これは任意の可測集合上で,という意味である.

(証明)
\displaystyle \int \sum_{j=1}^\infty f_j dm \geq \int \sum_{j=1}^n  f_j dm = \sum_{j=1}^n \int f_j dmであり,
この式の極限をとることで\displaystyle \int \sum_{j=1}^\infty f_j dm \geq \sum_{j=1}^\infty \int f_j dmが従う.
逆向きの不等号を示す.f=\displaystyle \sum_{j=1}^\infty f_jとおく.
関数列の各関数に対して
f_{11} \leq f_{12} \leq f_{13} \leq \cdots \to f_1
f_{21} \leq f_{22} \leq f_{23} \leq \cdots \to f_2
f_{31} \leq f_{32} \leq f_{33} \leq \cdots \to f_3
\cdots
f_{j1} \leq f_{j2} \leq f_{j3} \leq \cdots \to f_j
\cdots
\displaystyle \lim_{k \to \infty} \int f_{jk} dm = \int f_j dmとなる単関数の列がとれる.
\displaystyle s_k = \sum_{j=1}^k f_{jk} と定める.
この関数列\{ s_k \}_{k=1}^\inftyf積分が与えられることを示す.
\displaystyle s_k= \sum_{j=1}^k f_{jk} \leq \sum_{j=1}^k f_{j \, k+1} \leq \sum_{j=1}^{k+1} f_{j \, k+1} = s_{k+1} \leq f
および
\displaystyle \sum_{j=1}^\ell f_j =\lim_{k \to \infty} \sum_{j = 1}^\ell f_{jk} \leq \lim_{k \to \infty} \sum_{j=1}^k f_{jk} = \lim_{k \to \infty} s_k
\ell \to \inftyとして,\displaystyle f \leq \lim_{k \to \infty} s_kとなるから,\displaystyle f=\lim_{k \to \infty} s_kである.
よって,\displaystyle \int f dm = \lim_{k \to \infty} \int s_k dmが得られる.左辺は
\displaystyle \lim_{k \to \infty} \int \sum_{j=1}^k f_{jk} dm \leq \lim_{k \to \infty} \int \sum_{j=1}^k f_{j} dm = \sum_{j=1}^\infty \int f_{j} dm
となるので\displaystyle \int \sum_{j=1}^\infty f_j dm \leq \sum_{j=1}^\infty \int f_j dmが従う.(証明終)

ルベーグ積分の定義

いよいよルベーグ積分の定義に入っていこう.

[1] 非負単関数s
非負単関数\displaystyle s(x) = \sum_{j=1}^k a_j \chi_{E_j}(x)に対して,そのルベーグ積分
 \displaystyle \int_{\mathbb{R}^d} s(x) dm(x) := \sum_{j=1}^k a_j m(E_j)
と定義する.

[2] 非負可測関数f
非負可測関数fに対して,そのルベーグ積分
 \displaystyle \int_{\mathbb{R}^d} f(x) dm(x) := \sup \{ \int_{\mathbb{R}^d} s(x) dm(x) \mid ss \leq fを満たす非負値単関数 \}
と定義する.可測集合E上の積分fに指示関数\chi_Eを乗したものの積分を考えればよい.

[3] 一般の関数
実数値可測関数ff=f_+ - f_-と非負の部分と負の部分に分けてそれぞれに[2]を適用すればよい.ただしいずれの積分値も無限大に発散する場合には定義しない.
複素数値の場合には実部と虚部に分ければ,それぞれが実数値ゆえ同様である.

これでひとまず積分の定義は終わった.
右半開区間の定義から始めて,遠くへ来たわりには定義はあっけないものという感じがする.
それもそのはずで,ここまでルベーグ測度を十分に整備してきたからこそである.

定理
s_1 \leq s_2 \leq s_3 \leq \cdots \to fを満たす単関数列が存在すれば,
\displaystyle \int f dm = \lim_{j \to \infty} \int s_j dmが成り立つ.

定義
{\cal L}(\mathbb{R}^d)=\{ f \mid fルベーグ積分関数である \} と定義する.
ただしルベーグ積分関数とはルベーグ積分の値が有限である関数のことである.

この集合をf \sim g : \Leftrightarrow f=g a.e. という同値関係で割る.

定義
L^1(\mathbb{R}^d , {\cal M}(\mathbb{R}^d) , m) := {\cal L}(\mathbb{R}^d)/ \simと定義する.
左辺はL^1(\mathbb{R}^d), L^1などとも書かれる.

単関数列と可測関数

定義(単関数)
値を有限個しか持たない関数を単関数という.ただし値として\pm \inftyを許す.

数式で表すとfが単関数であるとは次のとおりである.
E_1 \sqcup E_2 \sqcup \cdots \sqcup E_kおよび相異なる実数a_1 , \ldots , a_kを用いて
\displaystyle f(x) = \sum_{j=1}^k a_j \chi_{E_j}(x)
とかけることである.ここで\chi_Aは集合Aの指示関数(特性関数)といい
x \in Aのとき\chi_A(x)=1で,x \notin Aのとき\chi_A(x)=0を満たす関数と定義される.

ところどころで一定の値をとり,しかもその値の出方は有限個に限られるものなので,扱いやすいといえる.
どんなものが単関数かは以下の例を見てもらえばより一層分かるだろう.

例(単関数の例)
1) 定数関数は単関数である.
2) 0 \leq x \leq 1で1,4 \leq x \leq 5で2をとり,その他はすべて0をとる関数は単関数である.

例(単関数でない例)
1) 1次関数や2次関数は単関数でない.
2) 0 \leq x \leq 1で定義された関数であり, 0 \leq x \leq \frac{1}{2}\frac{1}{2}\frac{1}{2} \leq x \leq \frac{3}{4}\frac{3}{4}\frac{3}{4} \leq x \leq \frac{5}{8}\frac{5}{8}のように長さが\frac{1}{2^n}になるたびに関数の値に+\frac{1}{2^n}される関数も段々になっているが単関数ではない.無限個の値をとるからである.

まずこの単関数に対してルベーグ積分を定義する.
そして他の関数に拡張することを考えるわけだが,このアイディアを支えるのが次の定理である.

定理.(可測関数は単関数で下から近似できる)
fは可測関数であり,非負値で+\inftyを許すとする.このとき,以下の条件を満たす単関数列\{ s_j \}_{j=1}^\inftyが存在する.
i) 各xに対し,s_1(x) \leq s_2(x) \leq \cdots \rightarrow f(x)
ii) すべてのs_j有界な関数かつm(\{ x \mid s_j(x) \neq 0 \}) < \inftyを満たす.

i)は可測関数は単関数で下から近似できることいっており,
ii)の後半は各単関数の定義域がおおよそ有限な範囲に収まっていることをいっている.

リーマン積分からルベーグ積分への転換は「たて」から「よこ」へにある

このルベーグ積分の話を始めた2年以上前の記事を見ると次のようなことが書いてある.

「すべての話の始まりは,様々な図形の面積・体積を測るにはどうすればいいかということだ.
素朴に考えると,長方形の面積・体積を定義し,
他の図形は長方形の近似で考えるのがいいと思われる.」

長方形の面積は小学校から(たて)×(よこ)で計算してきた.

リーマン積分の場合,定義域を小区間に分割し
(小区間の幅)×(小区間の任意の元の関数の値)で各小区間における長方形の面積を計算し,
たし合わせることによってリーマン和を計算した.
区間の幅の分割の仕方を初めに決定するので,
積分そのものの「難しさ」はどうしても関数の値にゆだねられることになる.
長方形の面積の話で言えば,(たて)に難しさを押し付けているのである.

ルベーグ積分ルベーグ測度を考えることで,定義域を複雑な図形へ分けることも許す.
こうすることで積分そのものの「難しさ」を関数の値からルベーグ測度に譲り渡している.
つまり(たて)から(よこ)へと視点を移しているのである.

(よこ)というのは関数にとっては関数の値のことである.
そこでまず定義域を分割したとき,その分割のひとつひとつにおいて定数である関数を考えると話が早い.
このような関数を単関数という.
そして単関数で近似できる関数を考えればよい.
実は近似可能な関数は可測関数なのである.あの定義はそういう意味もあるのだ.

岩手大学2016農学部第5問を解く

(1)は座標の決定なのでなるべく低い次数の方程式に帰着させるほうがよいと思う.
(2)はいくつかの方針が考えられる.
代入することでxの方程式にするか,yの方程式にするか,rの方程式にするか.
そのあとは定数を分離するか,判別式か.

5.
放物線y=x^2と円x^2+(y-3)^2=\frac{r^2}{4}について,次の問いに答えよ.
ただし,rは正の定数である.
(1)r=6のとき,放物線と円の共有点の座標をすべて求めよ.
(2)rがすべての正の実数値をとって変化するとき,放物線と円の共有点の個数はどのように変わるか,調べよ.

(解)
(1)
r=6を代入するとx^2+(y-3)^2=9である.
x^2=yを代入して整理するとy(y-5)=0からy=0,5を得る.
y=0のときx=0y=5のときx= \pm \sqrt{5}となる.
共有点の座標は(-\sqrt{5},5),(0,0),(\sqrt{5},5)である.

(2)
y=x^2x^2+(y-3)^2=\frac{r^2}{4}に代入して整理すると,x^4-5x^2+9=\frac{r^2}{4}…(☆)となる.
ここでk=f(x)=x^4-5x^2+9およびk=\frac{r^2}{4}とする.
f'(x)=4x^3-10f'(x)=0とするとx=0, \pm \frac{\sqrt{10}}{2}である.
関数fは偶関数なのでx=0のとき極大値9x=\pm \frac{\sqrt{10}}{2}のとき極小値\frac{11}{4}である.
xk座標上に上記2関数のグラフを描くことで,次のことが分かる.
0<\frac{r^2}{4}<\frac{11}{4}すなわち0 < r <\sqrt{11}のとき,方程式(☆)の解の個数は0個,
\frac{r^2}{4}=\frac{11}{4},\frac{r^2}{4}>9すなわちr=\sqrt{11},r>6のとき,方程式(☆)の解の個数は2個,
\frac{r^2}{4}=9すなわちr=6のとき,方程式(☆)の個数は3個,
\frac{11}{4} < \frac{r^2}{4} < 9すなわち\sqrt{11} < r < 6 のとき,方程式(☆)の解の個数は4個となる.
方程式(☆)の解の個数と放物線と円の共有点の個数は一致するので,解が得られた.(終)

岩手大学2016農学部第4問を解く

(3)の面積比で少しだけ驚いた.
試験会場で余裕がなくなっているとがむしゃらに計算することになるだろう.
実際には曲線と接線で囲まれた部分の面積なので,
被積分関数因数分解できることを考えるとそうでもない.


4.
曲線y=-x^3+3x^2+x-3Cとし,曲線C上の点(3,0)における接線を\ellとする.
(1)接線\ellの方程式を求めよ.
(2)pを実数とし,点(p,q_1)は接線\ell上にあり,点(p,q_2)は曲線C上にあるとする.
 p<3の範囲をpが動くとき,q_1 - q_2の最大値を求めよ.
(3)接線\ellと曲線Cで囲まれた図形は,y軸によって2つの部分に分けられるが,
 それらの面積のうち小さいほうをS,大きいほうをTとするとき,\frac{T}{S}の値を求めよ.
(解)
(1)
y'=-3x^2+6x+1からx=3のときy'=-8である.
よって\ell y=-8(x-3)=-8x+24である.

(2)
f(p) = q_1 - q_2と定める.
f(p)=(-8p+24)-(-p^3+3p^2+p-3)=p^3-3p^2-9p+27となる.
微分して
f'(p)=3p^2-6p-9=3(p+1)(p-3)
であるからp<3の範囲では増減表をかくことでp=-1で最大値をとることが分かる.
つまりq_1 - q_2p=-1のとき最大値32をとる.

(3)
直線\ellと曲線Cの差はf(x)=x^3-3x^2-9x+27=(x+3)(x-3)^2である.
f因数分解からy軸よりも左側の積分区間-3 \leq x \leq 0であり,
y軸よりも右側の積分区間0 \leq x \leq 3である.
(左側)\displaystyle =\int_{-3}^0(x+3)(x-3)^2dx
\displaystyle =\int_{-3}^0(x-3+6)(x-3)^2dx
\displaystyle =\int_{-3}^0((x-3)^3+6(x-3)^2)dx
\displaystyle = [  \frac{1}{4}(x-3)^4 + 2(x-3)^3 ]_{-3}^0
\displaystyle =\frac{1}{4}((-3)^4-(-6)^4)+2((-3)^3-(-6)^3)
\displaystyle =\frac{297}{4}

(右側)\displaystyle =\int_0^3(x+3)(x-3)^2dx
\displaystyle =\int_0^3(x-3+6)(x-3)^2dx
\displaystyle =\int_0^3((x-3)^3+6(x-3)^2)dx
\displaystyle = [  \frac{1}{4}(x-3)^4 + 2(x-3)^3 ]_0^3
\displaystyle =\frac{1}{4}(0^4-(-3)^4)+2(0^3-(-3)^3)
\displaystyle =\frac{135}{4}

つまり\displaystyle S=\frac{135}{4},T=\frac{297}{4}であり,\displaystyle \frac{T}{S}=\frac{11}{5}

岩手大学2016農学部第3問を解く

3.
89も29も素数なので,(1)はすぐ1であることが分かる.
(2)以降の右辺が-20である意味がつかめないのが悔しい.
おそらく何か由来があると思うのだが….

次の問いに答えよ.
(1)ユークリッドの互除法を用いて,89と29の最大公約数を求めよ.
(2)2元1次不定方程式89x+29y=1の整数解を1組求めよ.
(3)2元1次不定方程式89x+29y=-20の整数解として現れるxの値のうち,
 正のものを小さい順にx_1, x_2, x_3,\cdotsとする.このとき自然数mに対して,
 x_mmで表せ.
(4)(3)で定めたx_mに対し,89x_m+y=-20を満たすyの値をy_mとするとき,
 自然数nに対して,\displaystyle \sum_{m=1}^n (3x_m+y_m)^2nで表せ.

(解)
(1)
割り算することで89 = 29 \cdot 3 + 2,および29 = 2 \cdot 14 + 1となる.
よって最大公約数は1である.

(2)
(1)の1つ目の式を2=89 - 29 \cdot 3と変形し2つ目の式に代入することで,
89 \cdot (-14) + 29 \cdot 43 =1を得るからx=-14,y=43が整数解のうちの1組である.

(3)
89 \cdot (-14) + 29 \cdot 43 =1の両辺を-20倍することで,89 \cdot 280 + 29 \cdot (-860) = -20となる.
つまり89x+29y=-20の整数解は\ellを整数としてx=280-29 \ell, y=-860+89 \ellである.
ここでx>0が最小となるのは\ell=9のとき19をとる.
ゆえにx_mは初項19,公差29の等差数列で表現できるので
x_m = 19 + 29(m-1)=29m-10が得られる.

(4)
89 x_m +29 y_m =-20x_m =29m-10を代入すると,
29y_m=-2581m+870よりy_m = -89m + 30を得る.
これより3x_m + y_m =-2mとなる.以上より
\displaystyle \sum_{m=1}^n (3x_m+y_m)^2 = \sum_{m=1}^n 4m^2 = 4 \cdot \frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) = \frac{2}{3}n(n+1)(2n+1).(終)