べっこう色の記録

かつては日記でしたが、現在は数学のことを多く書いています

可解群のこと

ガロア理論を用いて開冪により代数方程式の解の公式が表されるか,ということを示す際,この可解群の話は避けられない.
定義を眺めるといくぶんやる気がそがれると思うが,とりあえず書こう.

定義(可解群)
G可解群である,とは
1) G=H_0 \triangleright H_1 \triangleright H_2 \triangleright \cdots \triangleright H_r=\{ 1 \}という正規部分群の列で,
2) H_i / H_{i+1}(i=0 , 1 , 2, \ldots r-1)はアーベル群
を満たすものが存在することである.

ここからは群は有限群であるとする.

このとき次のことが成り立つ.

定理
Gが可解群であることと,
1) G=H_0 \triangleright H_1 \triangleright H_2 \triangleright \cdots \triangleright H_s=\{ 1 \}という正規部分群の列で,
2) H_i / H_{i+1}(i=0 , 1 , 2, \ldots s-1)単純群かつ素数位数の巡回群
を満たすものが存在することは同値である.

(証明)
\Leftarrow)は明らかである.
\Rightarrow
可解群で存在する正規部分群の列をさらに細かくする.
H_i \triangleright H \triangleright H_{i+1}となるHが存在するならば,それをとることを繰り返す.有限群であるからこの操作は有限回で終了する.
とれなくなったとき,G=H_0 \triangleright H_1 \triangleright H_2 \triangleright \cdots \triangleright H_s=\{ 1 \}という正規部分群の列であるとする.
このとき各H_i / H_{i+1}は上のようなHが存在しないことから,正規部分群で自明なもの以外は存在しない.つまり単純群である.
またH_i / H_{i+1}は元の正規部分群の列の剰余群の部分群とみなせるから,アーベル群である.
さらに自明な群ではないから,単位元以外の元がとれる.
この元で生成される巡回群を考えれば,それはH_i / H_{i+1}正規部分群であるが単純群\{ 1 \}でないので全体に一致する.
もしこの巡回群の位数が素数位数でないとすれば,正規部分群を真に含むので単純群であることに矛盾する.つまり素数位数の巡回群である.(証明終)

証明は素直だが,少しやぼったいかもしれない.

さて,可解群の話には次の交換子群の話がついてくる.上の定義があれば十分そうなのだが.

定義(交換子)
Gの要素a,b交換子 [ a,b ]=a^{-1} b^{-1}abで定める.

定義(交換子群)
Gの部分群A,Bに対し, [ a,b ](a \in A, b \in B)全体で生成される部分群をA,B交換子群 [  A,B ]という.

定義(交換子群列)
Gに対し,D_0(G)=G, D_1(G)= [  G, G] と定める.
さらにD_{ i+1 }(G)=[ D_i(G) , D_i(G) ] とする.
このようにしてできる列,G=D_0(G) \supset D_1(G) \supset D_2(G) \supset \cdots \supset D_i(G) \supset \cdots 交換子群列という.

連続して交換子について定義した.
これが何の役に立つのか,というと察しのいいかたは最後に列が登場したのを見て気がつくだろう.
実はこの交換子群列がどこかでD_s(G)= \{ 1 \}となれば,Gは可解群であることが示されるのである.
まさにこの交換子群列が定義の正規部分群の列を与えているのである.
教科書によっては交換子で定義している.
前者の定義だと定義する内容は少なくて済むが,列が抽象的に与えられるためどのようにして見つけるのかが分からない.
後者であれば交換子を定義しなければいけないが,列を具体的に構成して与えられるという利点があるわけだ.