べっこう色の記録

かつては日記でしたが、現在は数学のことを多く書いています

常微分方程式の局所解の一意存在定理1

今回から何回かに分けて,
常微分方程式の局所解の一意存在定理(Cauchy-Lipschitzの定理)
を証明する.設定は以下のようである.

R,r>0とする.{\mathbb R}^N \times \mathbb{R}における有界閉領域D=D(R,r)
\begin{equation} D(R,r):=\{ (x,t) \in \mathbb{R}^N \, \mid \, |x| \leq R,\, |t| \leq r \}\end{equation}
と定める.
Dにおけるベクトル値連続関数f
f=f(x,t)=\left( \begin{array}{cc} f_{1}(x,t)\\ \vdots \\ f_{N}(x,t)\\ \end{array} \right), \quad (x,t) \in D,
と表されるとする.
 このとき次の常微分方程式を考える.
   \frac{d}{dt}x(t)=f(x(t),t).
これは改めて列ベクトルの形で書くと,
  \left( \begin{array}{cc} \frac{d}{dt}x_{1}(t)\\ \vdots \\ \frac{d}{dt}x_{N}(t) \end{array} \right)=\left( \begin{array}{cc} f_{1}(x(t),t)\\ \vdots \\ f_{N}(x(t),t) \end{array} \right)
という意味である.以上の設定の下,定理を述べる.

定理.(常微分方程式の局所解の一意存在定理)
 D=D(R,r)上の連続なベクトル値関数f=f(x,t),\, (x,t) \in Dは次の条件を満たすとする.
 1. M:= \max\{|f(x,t)|\, \mid \, (x,t) \in D\} < \infty とする.
 2.f空間変数xについてLipschitz連続,すなわち
   ある正定数Lが存在して,
     |f(x_{1},t)-f(x_{2},t)| \leq L |x_{1}-x_{2}|
   をすべての(x_{1},t),\, (x_{2},t) \in Dに対し満たすものとする.
このとき,次の常微分方程式の初期値問題
 \frac{d}{dt}x(t)=f(x(t),t),\, \, x(0)=0 \in \mathbb{R}^N
に対して,ある時刻T_{0}=T_{0}(N,R,r,M) \in (0, r)[-T_{0},T_{0}]上の局所解が一意的に存在する.

定理の注意を述べる.

注意
1.常微分方程式の初期値をx(0)=0としているが,これは簡単のためである.一般にx_{0} \in {\mathbb R}^N,\, t_{0} \in {\mathbb R}に対して,初期値をx(t_{0})=x_{0}としてもかまわない.その場合には,領域D
D=\{(x,t) \in \mathbb{R}^{N} \times \mathbb{R} \mid\, |x-x_{0}| \leq R,\, |t-t_{0}| \leq r \}
と修正した上で,同様の議論で示せる.さらにLipschiz条件が成立する領域が全空間であればこの解は大域解になる.つまり通常の意味での一階線形常微分方程式が大域解として表示を持つのは明らかである.
2.Lipschitz連続の条件はC^{1}の条件の必要条件である.すなわち,fC^{1}級であれば定理が成立する.

次から定理の証明に入る.次のような流れで示す.
1.準備としてGronwallの不等式を証明
2.Picardの逐次近似法により近似解を構成
3.その近似解が収束すること
4.その極限が常微分方程式の解であることを示す

以降,証明に入りたい.
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