べっこう色の記録

かつては日記でしたが、現在は数学のことを多く書いています

ジョルダン標準形・計算のやり方

とりあえず初めての数学の記事を作る.

その1回目がJordan標準形とはあまりにも重過ぎると思われるだろう.
実は個人的にJordan標準形を理解するまでにはかなり苦労したので,
どうしても最初の記事にして,私と同じような経験をする人を極力減らしたいと思ったのだ.

そもそもJordan標準形は教科書,他のサイト,Wikipedia,どこを見ても抽象論が多く,
私や,抽象論に慣れない人にとってハードルが高い(と思う).
そこで一度とにかく具体例を示してみることにする.
具体例を見て,それを暗記して,それで終わって何も身につかない人もいるだろう.
でもJordan標準形の抽象論や証明を見せられて,食わず嫌いになるよりましではないかと思うのだ.



例題:次の行列
\begin{equation*}A=\begin{pmatrix}1 &0 &0 \\1 &1 &0\\ 1 &1 &1 \end{pmatrix} \end{equation*}
のJordan標準形を求めよ.

:3段階で求める.

step1:行列 A の固有値を求める
A の特性方程式
\det(xI-A)=0
を解く.ここで I は単位行列である.解は 1 (重複度 3 )となる.


step2固有値に対する固有ベクトルと(広義)固有空間を求める
(A-I)u=0, {}^t u = (u^1,u^2,u^3)を解くと{}^t u=(0,0,u^3)である.
よって固有空間はW^{1}_{1}= {\rm span}\{ {}^t (0,0,1) \}となるので,1次元の空間である.

(A-I)^2 u=0,{}^t u = (u^1,u^2,u^3)を解くと{}^t u=(0,u^2,u^3)u^2,u^3は任意)である.
よって広義固有空間W^{2}_{1}={\rm span}\{ {}^t(0,1,0), {}^t(0,0,1) \}となるので,2次元の空間である.

(A-I)^3 u=0,{}^t u = (u^1,u^2,u^3)を解くとすべての u が解である.
よって広義固有空間W^3_1=\mathbb{R}^3となる.
そこで固有ベクトル{}^t u_1 := (1,0,0)を1個固定する.
{}^t (A-I)u_1=(0,1,1)=: {}^t u_2
{}^t (A-I)^2 u_1 = (0,0,1)=: {}^t u_3とおく.

step3ジョルダン標準形へ変換する
行列 P を\begin{equation*}P=(u_3 \, u_2 \, u_1)=\begin{pmatrix}0 &0 &1 \\ 0 &1 &0\\ 1 &1 &0 \end{pmatrix} \end{equation*}で定める.このとき,
\begin{align*}AP&=(Au_{3}\, Au_{2} \, Au_{1})\\ &=(u_3 \,u_3 + u_2 \, u_2 + u_1) \\&=(u_3 \, u_2 \, u_1) \begin{pmatrix}1 &1 &0 \\ 0 &1 &1\\ 0 &0 &1 \end{pmatrix} \end{align*}
となるから,Pの逆行列を左乗して
P^{-1}AP=\begin{pmatrix}1 &1 &0 \\ 0 &1 &1\\ 0 &0 &1 \end{pmatrix}
を得る.これでジョルダン標準形に変換できた.

(20.11.20 追記)内容を大幅に変更した.