Jordan標準形1

とりあえず初めての数学の記事を作る.

その1回目がJordan標準形とはあまりにも重過ぎると思われるだろう.
実は個人的にJordan標準形を理解するまでにはかなり苦労したので,
どうしても最初の記事にして,私と同じような経験をする人を極力減らしたいと思ったのだ.

そもそもJordan標準形は教科書,他のサイト,Wikipedia,どこを見ても抽象論が多く,
私や,抽象論に慣れない人にとってハードルが高い(と思う).
そこで一度とにかく具体例を示してみることにする.
具体例を見て,それを暗記して,それで終わって何も身につかない人もいるだろう.
でもJordan標準形の抽象論や証明を見せられて,食わず嫌いになるよりましではないかと思うのだ.



例題:次の行列
\begin{equation*}A=\begin{pmatrix}1 &0 &0 \\1 &1 &0\\ 1 &1 &1 \end{pmatrix} \end{equation*}
のJordan標準形を求めよ.

:4段階で求める.

1st step:行列 A の固有値を求める
A の特性方程式
$\det(xI-A)=0$
を解く.ここで I は単位行列である.解は 1 (重複度 3 )となる.


2nd step固有値に対する固有ベクトルと(広義)固有空間を求める
$(I-A)u=0, ^t u = (u^1,u^2,u^3)$を解くと$^t u=(0,0,u^3)$である.
よって固有空間は$W^{1}_{1}= {\rm span}\{ ^t (0,0,1) \}$となる.
そこで固有ベクトル$^t u_3 := (0,0,1)$を1個固定する.

$(I-A)^2 u=0, ^t u = (u^1,u^2,u^3)$を解くと$ ^t u=(0,u^2,u^3)$$u^2,u^3$は任意)である.
よって広義固有空間$W^{2}_{1}={\rm span}\{ ^t(0,1,0), ^t(0,0,1) \}$となる.
そこで固有ベクトル$^t u_2 := (0,1,0)$を1個固定する.

$(I-A)^3 u=0, ^t u = (u^1,u^2,u^3)$を解くとすべての u が解である.
よって広義固有空間$W^{3}_{1}=\mathcal{R}^3$となる.
そこで固有ベクトル$^t u_1 := (1,0,0)$を1個固定する.


3rd step:行列 A を三角化する
$Au_{2}=u_{2}+u_{3}, A u_{1}=u_{1} + u_{2}+u_{3}$に注意して,行列 P を
\begin{equation*}P=\begin{pmatrix}0 &0 &1 \\ 0 &1 &0\\ 0 &0 &1 \end{pmatrix} \end{equation*}
で定める.このとき,
\begin{align*}AP&=(u_{3}\, u_{3}+u_{2} \, u_{3}+u_{2}+u_{1})\\ &=P \begin{pmatrix}1 &1 &1 \\ 0 &1 &1\\ 0 &0 &1 \end{pmatrix} \end{align*}
となるから,Pの逆行列を左乗して
P^{-1}AP=\begin{pmatrix}1 &1 &1 \\ 0 &1 &1\\ 0 &0 &1 \end{pmatrix}
を得る.ここですでにJordan標準形の本質が見られる.それは
P^{-1}AP=\begin{pmatrix}1 &1 &1 \\ 0 &1 &1\\ 0 &0 &1 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1 &0 &0 \\ 0 &1 &0\\ 0 &0 &1 \end{pmatrix}+\begin{pmatrix}0 &1 &1 \\ 0 &0 &1\\ 0 &0 &0 \end{pmatrix}
のように対角行列と冪零行列の和の形で書けることである.
対角行列は正則行列を右乗,その逆行列を左乗しても変化しないので,残すところは冪零行列
N:=\begin{pmatrix}0 &1 &1 \\ 0 &0 &1\\ 0 &0 &0 \end{pmatrix}
の標準化を目指すだけである.


4th step:冪零行列の標準化
N^2 \not= 0, N^3=0に注意する.これより$ \mathcal{R}^{3}= \ker N^3 \supset \ker N^2 \supset \ker N \supset {0} $である.
また
$\ker N = {\rm span}\{ ^t w_{1} = (1,0,0) \}$
$\ker N^2 = {\rm span}\{ w_{1},\, \,  ^tw_{2}=(0,1,0) \}$
$\ker N^3 = {\rm span} \{ w_{1},\, \,  w_{2},\, \,  ^tw_{3}=(0,0,1) \}$
であり,
$\ker N^2 = {\rm span}\{ w_{1},\, \,  Nw_{3} \}$
\ker N = {\rm span}\{ N^2w_{3} \}
となる.そこで
Q:=(N^2 w_{3}\, \, N w_{3}\, \, w_{3})=\begin{pmatrix}1 &1 &0 \\ 0 &1 &0\\ 0 &0 &1 \end{pmatrix}
とおくと
NQ=\begin{pmatrix}0 &1 &1 \\ 0 &0 &1\\ 0 &0 &0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix}1 &1 &0 \\ 0 &1 &0\\ 0 &0 &1 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1 &1 &0 \\ 0 &1 &0\\ 0 &0 &1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix}0 &1 &0 \\ 0 &0 &1\\ 0 &0 &0 \end{pmatrix}=Q \begin{pmatrix}0 &1 &0 \\ 0 &0 &1\\ 0 &0 &0 \end{pmatrix}
であるから
(PQ)^{-1}A(PQ) = \begin{pmatrix}1 &1 &0 \\ 0 &1 &1\\ 0 &0 &1 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1 &0 &0 \\ 0 &1 &0\\ 0 &0 &1 \end{pmatrix}+\begin{pmatrix}0 &1 &0 \\ 0 &0 &1\\ 0 &0 &0 \end{pmatrix}
としてJordan標準形が求められた.□

解法は以上のとおりだが,解説が足りないので次回は各ステップごとに解説したい.

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