べっこう色の記録

かつては日記でしたが、現在は数学のことを多く書いています

行列の軽い計算

対角化の計算をするときに,固有ベクトルをとって行列を作るわけだが,
次のことが気になっていた。

命題.
P,Qは零行列ではないn次正方行列とする。
PQ=OならばQP=Oである。

(証明)
背理法QP \neq Oと仮定する。
Qを右乗すると,左辺はQPQ=QO=OからO \neq Oとなり矛盾する。(証明終)

この零行列の部分を単位行列に変えた命題も全く同じように示される。

(20.5.20)
完全なる嘘の証明である.反例が存在する.
\begin{equation*}P=\begin{pmatrix}1 &0 \\0 &0  \end{pmatrix},Q=\begin{pmatrix}0 &0 \\1 &0  \end{pmatrix}  \end{equation*}とおくと,PQ=OだがQP \neq Oである.

級数の問題を解く(数列の問題との絡み)

この問はどうするか。
1)\displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{1+2+3+ \cdots +n}{n^2}
級数ではないが,和の問題なので考えてみる。
解)
\frac{1+2+ \cdots +n}{n^2}=\frac{n(n+1)}{2n^2}=\frac{1}{2}(1+\frac{1}{n}) \to \frac{1}{2} as n \to \infty

このように一部が和の公式が使えるときは使うとよい。

2)\frac{1}{1 \cdot 3} + \frac{1}{3 \cdot 5}+ \cdots +\frac{1}{(2n-1)(2n+1)}+ \cdots
有名な部分分数分解を使うときである。\frac{1}{(2n-1)(2n+1)}=\frac{1}{2}(\frac{1}{2n-1} - \frac{1}{2n+1})
解)
nまでの和は部分分数分解を使うと次のとおりである。
\frac{1}{1 \cdot 3} + \frac{1}{3 \cdot 5}+ \cdots +\frac{1}{(2n-1)(2n+1)}
=\frac{1}{2}(\frac{1}{1}-\frac{1}{3}+\frac{1}{3}-\frac{1}{5} + \cdots +\frac{1}{2n-1} -\frac{1}{2n+1}
=\frac{1}{2}(\frac{1}{1} -\frac{1}{2n+1})(先頭と最後以外は前後で打ち消しあう)
\to \frac{1}{2} as  n \to \infty

級数の問題を解く(等比級数の具体的な計算)

前回
orz107orz.hatenablog.com
を受けて,実際の問題で公式を使ってみよう。

1)\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\cdots + (\frac{1}{2})^n + \cdots
初項が\frac{1}{2},公比が\frac{1}{2}の無限等比級数である。
公比の絶対値が1より小さいので,公式が使える。
\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\cdots + (\frac{1}{2})^n + \cdots = \frac{\frac{1}{2}}{1-\frac{1}{2}}=1

2)0.999\cdots
かの有名な問題である。この・・・が曲者だ。
この・・・は何かを省略したものではない。別の解釈をする。
その解釈とは何かというと,級数だととらえるのが普通だと筆者は考えている。
つまり,0.999 \cdots = 9 \cdot \frac{1}{10} + 9 \cdot (\frac{1}{10})^2 + 9 \cdot (\frac{1}{10})^3 + \cdotsと考える。
そういうわけで,右辺に公式を使うと\frac{\frac{9}{10}}{1-\frac{1}{10}}=1であるから,0.999 \cdots = 1である。

級数の問題を解く(等比級数)

今回は等比級数の一般論を扱う。つまり
a+ar+ar^2+ar^3+\cdots
の形をしているものである。a=0r=1はつまらないので除外することにする。

級数の定義によって収束発散を議論しよう。
S_n=a+ar+ar^2+ \cdots +ar^{n-1}
とおき,ひとまずこの和を計算する。等比数列の和の公式でS_n=\frac{a(1-r^n)}{1-r}となる。
n \to \inftyの極限をとるが,nは分子のr^nにのみ存在するのでここだけが問題である。
1)r>1の場合
s>0を用いてr=1+sと表せる。ここでr^n=(1+s)^n=1+ns+\cdots+s^nからr^n>1+nsを得る。
nを限りなく大きくすると1+nsは正の無限大に発散するので,r^nも正の無限大に発散する。
つまりS_nも発散するので,級数の定義から値は存在しない。
同様の議論でr \leq -1の場合も級数の値は存在しない。
2)|r|<1の場合
アルキメデスの原理よりr^n \to 0 as n \to \infty
つまりS_n \to \frac{a}{1-r} as  n \to \inftyである。

以上の議論で|r|<1の場合,a+ar+ar^2+\cdots = \frac{a}{1-r}が分かった。

トレミーの定理の証明

あまり一般的ではない証明をつける。

定理.(トレミーの定理)
円周上の4点A,B,C,Dに対して,AB \cdot CD + BC \cdot DA = AC \cdot BDが成立する.

(証明)
f:id:orz107orz:20171218000216p:plain:w300
図に対して以下のように角度を定める.
f:id:orz107orz:20171218001311p:plain:w300
四角形の対角線とそのなす角は下の図のように,三角形の外角から\alpha + \betaである.
f:id:orz107orz:20171218001315p:plain:w300
よって四角形ABCD=\frac{1}{2}AC \cdot BD \cdot \sin(\alpha + \beta)…(1)である.
次に三角形ACDに着目する.下の図のように三角形ABDを裏返す.
f:id:orz107orz:20171218002341p:plain:w300
このとき四角形ABCD=ABD'+△CBD'であるが,
ABD'+△CBD'=\frac{1}{2}AB \cdot AD' \cdot \sin (\gamma + \delta)+\frac{1}{2}BC \cdot CD' \cdot \sin(\alpha + \beta)
である.\gamma + \delta = 180^\circ - (\alpha + \beta)かつAD'=CD, CD' = DAより
四角形ABCD=\frac{1}{2}AB \cdot CD \cdot \sin (\alpha + \beta)+\frac{1}{2}BC \cdot DA \cdot \sin(\alpha + \beta)…(2)を得る.
以上(1) ,(2)よりAB \cdot CD + BC \cdot DA = AC \cdot BDが成立することが示された.
(証明終)

級数の問題を解く(導入)

いくつかの級数の問題は取り扱ってきたものの,初歩の問題はなぜかやらずにきた。面倒だったのかもしれない。
今回はそのような問題たちを扱う。

ところで級数とは何か,という話を初めにしなければならないだろう。
級数(無限級数)とは,無限項の数列の和のことである。
すなわち,数列\{ a_n \}_{n=1}^\inftyに対して\displaystyle \sum_{n=1}^\infty a_nのことである。

ここではたと困ることがある。
人間は無限項の足し算などできるはずがないということである。当たり前のことだが大問題といえるだろう。
どうやって無限の足し算をすればいいのだろうか。

解決する手段はこうである。
まずn=1, 2, \ldots ,mととりあえず第m項までの和をつくる。\displaystyle S_m=\sum_{n=1}^m a_n
次にこのS_mmを限りなく大きくする。つまりm \to \inftyとするのである。
このとき\displaystyle \lim_{m \to \infty}S_m = \lim_{m \to \infty}\sum_{n=1}^m a_nが存在する場合に限り,その極限を無限項の和と解釈するのである。
無限に足さずに極限の解釈をすることで,議論をすりかえている。うまい方法だ。

逆にいえばこの手順で無限項の和を求めればよい,ということになる。
色々なパターンの問題を取り扱っていく。

1/6公式からの発展

1/6公式 \int_a^b (x-a)(x-b) dx=-\frac{1}{6} (b-a)^3はよく知られている.

少し変えて,\int_a^b (x-a)^m(x-b)^n dxはどうだろうか.
これはこのようになる.
\displaystyle \int_a^b (x-a)^m(x-b)^n dx=\frac{1}{(m+n+1) {}_{m+n}{\rm C}_{m}} (b-a)^{m+1} (a-b)^n

右辺のb-aはまとめられることが多いのだが,こうしておくと符号がどうなるかわかる.
つまり被積分関数x=a,bを代入した際の符号に依存するということであって,
この書き方であれば直接的に出てくる.
また係数部分もよく階乗で書かれているが,こうして組み合わせの記号で書いておくと覚えやすいのではなかろうか.
具体例を挙げておこう.

例.
\int_a^b(x-a)(x-b)^2dxを求めよ.

解.
係数を計算する.
(x-a)(x-b)^2の次数を見ると3次なので(3+1) \cdot {}_3 {\rm C}_1=4 \cdot 3=12である.
これより
\int_a^b(x-a)(x-b)^2dx=\frac{1}{12}(b-a)^{1+1}(a-b)^2=\frac{1}{12}(b-a)^4
である.